パスツール研究所Department of Genomics and Geneticsの外部評価に携わって

磯野克己(かずさDNA研究所・参与)
2008年10月29日


過日標記の外部評価委員を委嘱され、パスツール研究所で開かれた外部評価委員会に出席し、同研究所のDepartment of Genomics and Genetics(以下DGGと略す)の評価をまとめる任務に携わる機会がありました。フランスの研究機関のこのような任務を委嘱されたのは初めてですし、特にパスツール研究所の評価であったのでかなり緊張しましたが、何とか無事に任務を果たすことができたと思っています。そこでこの際、パスツール研究所を例として、外国の機関の評価がどのように行なわれるのかということの要点を紹介することも意義のあることと考え、ここに一文をしたためた次第です。

ご存知の方も多いと思いますが、パスツール研究所はフランスの国立の機関ではなく、あくまでもLouis Pasteurがその基礎を作った私的な研究機関(もちろん現在ではCNRSをはじめとするかなりの額の国の研究費が入っている)であり、したがって直接国による支配は受けていません。研究所の運営は、あくまでもPresidentならびにScientific Director、さらにDirectionと名付けられた専門の研究所職員(すべて学位保持者であることは言うまでもありません)からなる運営上の執行機関が研究所の運営の任に当り、加えてScientific Councilという常設の委員会(メンバーは研究所外のフランス人および外国人)があって、必要に応じて研究所の運営の方向が議論されています。そして、このDirectionからの要請に応じて、通常は4年に一度、それぞれのdepartmentを評価する外部評価委員会が設置され、department全体の業績の評価、departmentの下部機構であるunitと名付けられたグループならびにそれ以外のグループ(unitは通常10年単位で継続を審査されるのですが、より若手の研究者が中心となったG5と名付けられた5年単位で設置されたグループもあります)の研究評価が行なわれます。今回の外部評価には、これらに加えて、DGGに貼り付けられているplatformと名付けられ、ゲノムの塩基配列決定や、バイオインフォーマティクスなどのように、研究所全体に共通する業務を行なうグループの評価も担当しました。

今回私がDGGの外部評価委員の委嘱を受けたのは、本年1月に、古い友人であるAntoine Danchinから外部評価委員を引き受けてくれるかどうかの問い合わせがあったことによります。外部評価委員会の設置過程についてAntoine(彼が現在DGGの長)に聞いたところによれば、まず部門の運営責任者であるAntoineが十名以上の候補者名簿を上述したDirectionに提出し、その中からDirectionが必要と考える人数を選定して依頼するのだということです。今回の評価委員は、イギリス人2名、アメリカ人3名(うち1名はアメリカに帰化したフランス人)、スェーデン人1名、デンマーク人1名(Scientific Councilのメンバーでもある)、および私の8名でした。ただし、直前になってこのうちの1名の方が交通事故によって委員を辞退しましたので、最終的には7名で審査に当りました。

評価委員会では、まず、それぞれのグループの責任者が自己のグループの活動の概要について述べ、その後当該グループのシニア研究員が研究活動を発表します。時間はグループの設置条件や規模によって、30分、60分および90分に設定されており、この時間内で各委員からの質疑応答を行ないます。もちろん、それぞれのグループの活動概要については、あらかじめ印刷物ならびにCDが配布されており、われわれ委員はこれらの資料に目を通した上で上記の発表に臨むことが求められていました。しかし、あらかじめそれらの資料に目を通すことでそれぞれのグループの問題点をある程度は把握することはできても、実際に発表を聞いて質問することにより、内容について部分的に誤解していたことがわかることもありますし、また業績についてのグループの力点の置き方等も、資料を読んだ上で得たものとはかなり印象の違うこともありました。

このような発表会を終えた後、2日目の午後に委員だけで集まり、まずDGGの評価について意見交換した上で、半日かけてそれぞれのグループの評価書の草稿を書き、それらをまとめて3日目の午前に開かれたScientific Councilに提出しました。私はこの外部評価委員会の委員長を仰せつかっておりましたので、DGG全体としての評価を書くこととともに、それぞれの委員から提出された評価書の草稿のフォーマットを整えてまとめ、PDFファイルにしてScientific Council担当の秘書に手渡すという作業をしなければならず、2日目の夜は結局4時間位しか眠る時間がありませんでした。いずれにせよこのようにして3日目の午前中一杯かけてScientific Councilで評価の概要報告とCouncilメンバーからの質疑に対して回答し、無事現場での委員会を終了しました。

ちょうどこのわれわれの外部評価委員会が開かれている時に、Luc Montagnier博士とFrançoise Barré-Sinoussi博士のノーベル医学生理学賞の受賞の報がもたらされ、パスツール研究所内での記者会見などがありました。ただし、われわれには評価報告書を最終的にまとめる仕事が残されていましたので、当然のことながらまったく無関係でしたが・・・。帰国後、各委員とのe-mailsのやり取りを通じて報告書の最終版をまとめ、ようやく昨日Direction宛てに最終的にまとめたもの送付することができ、長い間の肩の荷を下ろすことができてほっとした次第です。膨大な時間とエネルギーを使った外部評価でしたが、この経験からすると日本の大学や研究所の評価ももっとエネルギーを投じてきちんとする必要があるのではないかと思います。

以上


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