4月11-14日の日程で、Microbial Genomes 2007がWellcome trustのSanger Instituteで開催された。ポスター発表が60ほど、招待講演者による口頭発表が25程度のこじんまりした会議である。会議期間中は、基本的にパブくらいしかないHinxtonの町に拘束されるため、かずさでの会議に似た感じで、参加者はほぼ全て、興味の有無にかかわらず口頭発表を聞くことになる。
 実際の口頭発表は12日がゲノム解析、比較ゲノム解析、メタゲノム解析および微生物の多様性に関するゲノムシーケンスをメインにした解析の報告が行われ、13日はファンクショナルゲノミクス、14日は情報系の解析に特化した発表が行われた。出席者の興味を持つ分野が大きく異なるため、質問はあまり活発とは言えず、このようなスタンスで行われる学会をどのように企画し、運営するかということは、日本に限らず、極めて難しいことが良くわかる会議であった。
 今回のレポートでは特に筆者らが発表したファンクショナルゲノミクスのセッションについて詳しく報告することにして、他のセッションとポスターについて短く概括したい。
ポスターの多くは、ゲノムシーケンスと比較ゲノム解析の報告であった。すでに多くの研究所で(少なくとも、複数のサンガーセンター並みの研究所では)、454と3730xlを併用したゲノムシーケンス法とassembleのシステムを構築し、特にre-sequenceに力をいれて解析を進めていた。解析スピードに関しては、454に関してうたわれている、一つの細菌を4日程度、解析に2-3週間というところだと各発表者は言っており、また、精度もほとんど変わらないとのことであった。これと3730xlを併用することで、極めて効率的に最低でも3種程度の細菌のゲノムシーケンスを同時に、極めて短期間に行っている印象であった。Re-sequenceの発表で、もう一つ興味深かったのは、Texas Methodist HospitalのJim MusserによるNimbleGENのre-sequenceシステムを利用したSNPsの解析を行ったというものであった。よくご存知の方も多いと思うが、arrayをベースにしたこのシステムの有用性と精度をMusserは高く評価していて、Group A Streptococcus、12株のSNPsを極めて高精度に決定できたとしていた。ただ、多くの発表で、違いは正確に検出できるが、そのうちのどの変化が生体活動とリンクした意味のある変化かという議論には踏み込めておらず、その前段階の試みをしているという発表もあったので、その点に関しては今後の重要な課題だろう。ゲノム情報の応用としてはTIGRのHerve TettelinがGroup B Streptococcusの多数のゲノム配列からワクチンの候補となる抗原のスクリーニングについて紹介した。その中で、大規模にスクリーニングする手段としてマウスの代わりに培養上皮細胞と免疫細胞を用いたex vivo human immune response systemによる可能性について触れていたのが興味深かった。
 情報系の解析も比較的多く、遺伝子発現networkやタンパク質間相互作用の発表も多くなされていた。これらの解析に関しては、様々な手法が提案されている一方で、現実的に検証可能な仮説の提案にはいたっておらず、新たな展開が待たれるところなのではないかと感じられた。
 ファンクショナルゲノミクスのセッションでは、まず、Stephen LoryによるPseudomonas aeruginosaのバイオフィルム形成に関するaffymetrixのGenechipを用いた解析が紹介された。遺伝学的にRetSおよびLadSというセンサーカイネースを見つけるところから始まったこの話は、2つのセンサーがお互いにレシプロカルに働き、バイオフィルム形成をコントロールしているということ、さらにこのネットワークの中にはRsmZと呼ばれるsmall RNAが存在していることが紹介された。この転写制御ネットワークを解析するために、彼らはGenechipを用いた解析を行っていた。この部分がファンクショナルゲノミクスなのだと思うが、この解析では、2つのセンサーがお互いにレシプロカルに働くことが支持されただけであり、結局、転写ネットワークの実像には迫れてはいなかった。この点は、トランスクリプトーム解析の限界を如実に物語っているといっても良い。続いて、University of BirminghamのSteve BusbyがChIP-chip解析について紹介した。細菌のChIP-chip解析で世界をリードする彼らの発表で特に重要な点は、転写因子が直接結合している部位を知ることにより、より正確に転写因子のキャラクタライゼーションが可能になるということであろう。特に、大腸菌の核様体たんぱく質の解析に関しては、Fis, IHF, H-NSについて行っており、さらにCrpも核様体たんぱく質の性質を備えていると提唱した点と、核様体たんぱく質の結合位置は基本的には変わらないが、RNA polymeraseの結合部位は変化することから、染色体の構造と転写活性化領域の関連性が今後とかれるべき重要な課題の一つであるとした点が極めて印象深かった。Institute PasteurのCarmen Buchrieserはアメーバを利用した、in vivo系でのL. pneumophilaのトランスクリプトーム解析について紹介した。彼女らは、アメーバに感染させた異なる3つの株のトランスクリプトーム解析を行うことにより、in vitroでは発現していないvirulence factorを見出していた。これらの因子の中にはhostからの攻撃を避けるための因子として知られるものも含まれており、実際にin vivoでL. pneumophilaが生き抜くために必要な、ダイナミックな変化をトランスクリプトームできちんと捉えていることが確信できる発表であった。彼女らは、さらにsigma因子、FliAやRpoE、2成分制御系、ppGpp, c-di-GMPの、L. pneumophilaの生活環への積極的な関与の可能性を本解析から提唱していた。このセッションでは他に、Trinity CollegeのCharles DormanがH-NSに関する最新の知見をreviewした。昨年度から活発化したH-NSに関する話題は、獲得した遺伝子のサイレンシング機構、H-NSの多量体化を通した染色体構造の形成とそれを通じた転写制御機構、および細菌の染色体で形成されているとされるドメイン構造へのH-NSの関与であるが、それに関して、それぞれ解析が加えられ、最後に彼らが最近発表した赤痢菌のVirB因子による転写制御機構について紹介がなされた。これによると、H-NSが異なる2本のDNA間にブリッジを掛けることにより構造を決定し、転写抑制が行われたり、染色体の構造を決めていることはかなり確かなものだと思われた。また、筆者らのうちの一名である戸邉が提唱していた染色体の超螺旋構造の維持と変化による発現制御機構が再度注目されている点は、今後の細菌の転写制御を考える上で重要だろう。
 本会議の全体的な印象は、ゲノム研究というくくりで、知見や意見を効果的に引き出し、それを利用することはきわめて難しい作業である、ということである。初日のゲノム解析のセッションなどでは解析法に関する議論のほうが多く、どのようなアプローチで、どのような生命現象に迫っているのかがいまひとつはっきりしない発表も多数見受けられた。逆にファンクショナルゲノミクスでは、それぞれの演者が、はっきりした問題設定を掲げて解析を行っているために、おそらく他の分野の研究者の中には全く興味の持てない方も多かったのではないかと想像される。この点では、ゲノム微生物学会も同様な問題を内包していると思われるので、何らかの対処法を考えるべきなのではないかと感じられた。例えば、複数の代表的な研究者によって、分野ごとのreviewを行っていただき、それぞれの分野に対する最低限の知識(現在の中心的な問題点やそれを解くために開発されている解析系)を手に入れてから、演者の発表を聞く、等の工夫がなされるべきであると感じた。一方で、他の分野の先進的な解析結果を聞くことは、極めて刺激的なことであるので(例えばre-sequencingのスピード感などは門外漢にとっては驚きである)、このような分野横断的な集団による学会は非常に重要だと感じたことも併記して、レポートを終わりたいと思う。

奈良先端科学技術大学院大学 大島拓
大阪大学大学院医学系 戸邉 亨

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