GENOMES2008(Functional Genomics of Microorganism)に参加して

 2008年4月8日から11日までの間、フランス・パリのパスツール研究所にて開催されたGENOMES2008(Functional Genomics of Microorganism)に参加した。セッションは、Host-Microorganism Interactions(Pathogens(9)、Symbionts, Commensals(4))、Host Genomics and Vaccines(3)、New Technologies(4)、Functional Genomics(4)、Microbial Metagenomics(6)、Computational, Structral Genomics and Systems Biology(4)、Comparative Genomics and Evolution(6)に分かれていた(括弧内は発表数)。また、ポスター発表の数は163であり、参加者は全体で500名程度であった。
 今回の学会では、次世代シークエンサーを用いた新規あるいは近縁な微生物の全ゲノム配列の決定(nearest neighbor sequencing)や、それに基づく比較ゲノム解析、そして、代謝パスウェイの比較、そして、様々な環境におけるメタゲノム解析についての発表が目立っていた。
 同時に行われたスポンサーのCompany presentationsでは、Applied Biosystem (ABI)、COGENICS、Rocheからの発表があった。Applied Biosystem (ABI)は、SOLiDシステムにより大腸菌2株の全ゲノム配列を新たに決定し、K-12株との比較ゲノム解析を行っていた。フランスの企業COGENICSは、Roche 454を用いた全ゲノム配列の決定やメタゲノム配列の決定、BAC配列の決定などのシークエンシングからバイオインフォマティクスの解析までの幅広い解析を受託していた。実際に、幾つかの微生物について全ゲノム配列を新たに決定しており、その配列の精度はSNP解析が行える程の充分な精度であった。また、Rocheは、Roche 454を用いて微生物の全ゲノム配列を決定し、比較ゲノム解析を行っていた。今後、数多くの微生物の全ゲノム配列が次世代シークエンサーにより決定されることが予想されるため、比較ゲノム解析がますます容易に行われると思われる。
 Host-Microorganism Interactionsのセッションでは、病原性と遺伝子との関係を明らかにするために、株に特有な配列のシークエンシングを“subtractive hybridization”や次世代シークエンサーを用いて決定し、さらに比較ゲノム解析を行うことで、水平伝播を調べた研究の発表があった。今後、病原性に関与する遺伝子配列が数多く同定され、遺伝子配列と病原性の関係を明らかにしていくためには、バイオインフォマティクスによる遺伝子配列からの病原性遺伝子の同定が問題となっていた。
 Microbial Metagenomicsのセッションでは、メタゲノムの目標として、1)代謝パスウェイの理解、2)酵素活性の高い酵素の発見、3)遺伝子の総覧の作成、4)微生物の総覧の作成、を挙げた発表があった。フランス国立農業研究所(INRA)のD. Ehrlich氏は、ヨーロッパで立ち上げられたプロジェクトであるMetaHit(Metagenomics of the Human Intestinal Tract)についての発表を行った。MetaHitとは、腸内フローラにおける遺伝子と微生物の機能との関係を明らかにし、さらには、食品と我々の健康との関係を効率よく研究しようとするプロジェクトである。このプロジェクトの遂行のために、12のヨーロッパの研究機関や企業、中国の研究機関が参加し、EUはこのプロジェクトに対して、2,000万ユーロ(33億円)を投資していた。しかし、その発表では、実際の解析結果がまだ出ていないため、黒川氏が行ったヒト腸管内のメタゲノム解析結果を使ってMetaHitの流れを紹介していた。ワシントン大学ゲノムシークエンシングセンターのG. Weinstock氏は口腔内メタゲノムについての発表を行い、口腔内フローラは個人でも隣の歯の間でも異なっており、およそ1,000の異なる種の微生物が生息していると述べられていた。アメリカでは、口腔内の微生物間の相互作用の変化と健康状態の変化との関係を調べ、さらには、それらの変化のメカニズムを解明することを目的として、Human Microbiome Projectというプロジェクトが立ち上げられている。この研究を遂行するために、ワシントン大学のゲノムセンター、Baylor大学薬学部、Broad Institute、J. Craig Venter Institute、NIH Sequencing Centerが共同研究を行っていた。このように、メタゲノムの研究においては、多くの研究機関が共同で研究を進めていく必要性が述べられていた。具体的なメタゲノム解析としては、新規酵素を発見する研究も発表された。それらの研究の中では、シアノバクテリアのphotosystem II D1タンパク質(psbA)を海水中のメタゲノムデータから探索し、さらに、炭素循環サイクルにおける酵素群の発見がなされていた。また、ヒト腸管内から食物繊維を特異的に消化する新規酵素を見出すために、メタゲノムライブラリーを作製し、セルロース、ヘミセルロースといったポリサッカライドを加水分解することで、スクリーニングを高速に行うシステムも開発されていた。
 New Technologiesのセッションでは、グラム陽性細菌の全プロテオームを解明するために、細胞質内と細胞外に分泌されたタンパク質をゲル電気泳動を用いた従来のプロテオーム解析、そして、膜タンパク質や細胞表面のタンパク質をクロマトグラフィーを用いたプロテオーム解析の両方を組み合わせることで、細菌に感染した際に発現するタンパク質の同定を行っていた。また、Roche 454やIllumina 1Gを用いた新規な属や種の微生物ゲノム配列の決定やSNP解析、そして、近縁種とのゲノム比較による進化解析の発表もあり、今後、次世代シークエンサーを用いて様々な解析が行われていくことが期待される。



投稿者:平川英樹:九州大学大学院農学研究院・助教


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