その昔ガリレオがランプの揺れ具合から「振り子の等時性」に気づいたという大聖堂や「落体の法則」の実験をした斜塔など、史跡で有名なイタリアはトスカーナの古都ピサ。その郊外に位置する海岸リゾート地ティレニアにて、『4th Conference
on Functional Genomics of Gram-Positive Microorganisms(第4回グラム陽性菌機能ゲノム学会議)』が開催された。隔年開催されるこの会議は早くも第4回を数え、この名称もようやく定着してきたが、実は今でも『14th International Conference on Bacilli (第14回バチルス国際会議)』と併記がある。つまり、主として枯草菌の研究を国際的にリードしてきた歴史を誇る『バチルス国際会議』を発展的に継承する当該分野最大の国際会議である。今回の参加者は総勢380名あまり。前回に比して米国勢がやや縮小した一方、欧州勢の拡大が目覚しく、そして我国からの参加者もおよそ30名を数える盛会であった。
今回は、枯草菌のゲノム配列が解読されて以来10年目という節目にあたる。口頭発表100件あまり、ポスター発表約170件のうち、依然として半数以上は枯草菌に関する最先端の研究発表であった。遺伝子機能発現調節に関する優れた研究に目を引かれたが、筆者が最も感銘を受けたのは、炭素源と窒素源の代謝バランスの鍵となるGlu生合成がGlu脱水素酵素RocGと転写調節因子GltCの直接的相互作用によって調節されることを見出したCommichau博士(ドイツGoettingen)の発表であった。無論その他興味深い発表の枚挙に暇はないが、敢えて我国の貢献例を挙げれば、DNAマイクロアレイを駆使してRNAポリメラーゼの挙動をゲノムワイドに掌握した石川先生(奈良先端大)、脂肪酸代謝に関わる大きなレギュロンの全貌解明に成功した藤田先生(福山大)の発表等、大いに反響を呼んでいた。
一方、その他のグラム陽性菌(特に病原菌)に関する目新しい研究発表が顕著に増加したことも今回の特徴であった。(本会議終了後には病原菌研究支援リソース[ Pathema]ワークショップも併設された。)病原菌など比較的基礎研究情報に乏しい研究対象もゲノム配列を手にすれば、枯草菌等を対象とする先駆的研究によって蓄積された知見を巧く適応することで、第一線の研究対象に変貌するというポストゲノムの研究スタイルが既に確立した証しであろう。しかし、話題の拡張につれて研究レベルや到達度の高低差も開きが大きくなり、玉石混交の印象を抱いたのは筆者だけではなかった。萌芽期にある研究も次回には大きく花開くであろうと期待するところである。そして、それを確かめるためにもバチルス国際会議時代からの古い研究者仲間らと2年後の再会を誓い、陽光眩しい潮風のティレニアを後にした。
投稿者:神戸大学大学院農学研究科 吉田健一